A:人に頼らず、自立して生きていきたいという気持の強い人では、自分が忘れるわけがない(忘れたなどということが受け入れられない)と思うあまり、そばで世話をしている人が盗んだという、物盗られ妄想がしばしばみられます。これは、物忘れという中核症状に、自立心が強いと言う性格や、心ならずも家族に迷惑をかけているという状況が影響して起こる周辺症状です。疑われている介護者が疲弊しないように、あまり深刻にならずに違うところに気持が移るように工夫しましょう。こういう妄想は 時期が来れば自然に見られなくなります。
<物盗られ妄想がより複雑なな妄想になることもある>
妄想的になりやすい素質を持った人にストレスがかかったときに、単純なもの盗られ妄想から「嫁は家の財産をねらっている」とか「家を乗っ取られる」といった妄想に発展します。これには「妄想的になりやすい」という素質が深く関与しているので、妄想を治療する抗精神薬が効果を上げることが少なくありません。単純なもの盗られ妄想にしては訴えがオーバーだったり執拗にに訴えてきた場合は、妄想の対象になっている人を守るためにも本人の症状を軽減するためにも、認知症を良く理解している専門医(物忘れ外来、精神科)に相談しましょう。
記憶障害や見当識障害などは、脳の神経組織の障害によって起こり、認知症の人全員に現れるので「中核症状」と呼ばれています。認知症には、このほか、周囲とのかかわりで起こる「周辺症状」とよばれるものがあり、認知症の人のおよそ8割に現れると言われています。
現実には起きていないことを信じて疑わないことが「妄想」です。ただし、ご本人が確信するのには、本人なりの理由があるのです。例えば、「財布を家族が盗む」と確信する場合。おそらく、①.財布をタンスの引き出しの中にしまったのに忘れてしまった(記憶障害) ②.一方で「財布は机の上に置いたはずだ」と思いこんでいる(記憶障害) ③.「机の上に置いた財布がなくなったのだから、家族が盗ったに違いない」と推測する、と言ったプロセスがあるのでしょう。周辺症状は、このように中核症状がもとになって現れる場合が多いと言われています。
介護施設では、そんなときは叱らずに本人と一緒に探してみるという対応をします。スタッフだけで見つけて本人に差し出すと「やはり盗ったのだ」などと言われるかもしれないので、見つけたら分かりやすいところに置いて本人に発見させるようにします。認知症の人は「自分が忘れていた」とは言わず、たいてい、「どうしてこんなところにあったんだろう」と言うと思いますが、そこは我慢して心を落ち着かせ少しオーバーめに「見つかってよかったですね」と共感する言葉掛けをします。また、何度も何度も盗ったと訴える場合は、気分を違う方向へ転換させるように配慮しています。
妄想とは現実に起こっていないことを起こっていると確信する、訂正不可能な間違った考えをいいます。内容によって、被害妄想(例:誰かにいじめられている)、追跡妄想(例:いつも誰かにつけられている)、嫉妬妄想(例:自分の夫あるいは妻が浮気しているに違いない)などがあります。精神疾患の統合失調症などにもよくみられます。
物盗られ妄想は、認知症によく起こります。認知症になると、すべての人がこの妄想にとらわれるわけではありませんがおよそ10~20%にみられるといわれます。男性よりも女性に多いのも特徴です。
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